『七面鳥』と『忘れ褌』
佐藤垢石
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)煎《い》り
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)生来|活《い》き物
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)お札の[#「お札の」は底本では「お礼の」]一枚
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一
『斉正、その方は七面鳥を持っているか』
鍋島斉正が登城したとき、将軍家定がだしぬけにこんな質問を発したから斉正は面喰らった。
『……』
『持っているじゃろう、一羽くれ』
『不用意にござります。わたくし生来|活《い》き物を好みませぬので――』
『はて、心得ぬ』
『何か、お慰みのご用にでも遊ばされまするか』
『そんなこと、どうでもええ』
家定は、生まれつき聡明の方ではなかった。水戸斉昭から越前慶永へ送った手紙に――上様日頃の御遊びは、鵞鳥を追ひ、或ひは御殿にて大豆を煎《い》り給い――とあるのを見ると七、八歳の若君であればともかく、三十歳の将軍の遊びごととしては無邪気を通り越している。大奥で、豆をいるなどということを、一体誰が教えたものであろう。
また、宇和島藩主伊達宗城から
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