た肩、剥《む》いた眼、突き出した首のやり場がない。それは、そのはずである。七面鳥は、将軍の手許へきてから以来、毎朝毎夕お茶坊主から餌を頂戴していた。ところで奥庭へ引き出されて見たところ坊主頭が五、六人揃っていたから、またいつものお茶坊主かと思案して何の恐れるところもなく、ゆるゆると歩いてきて餌をせがむのであった。
『上《かみ》の心も知らぬ七面鳥奴!』
と、将軍は内心怒りを発したが、それは無理である。
けれど、医師は本草綱目や動物書くらいは通覧しているから、七面鳥の習性は知っていた。
中に、心利きたる医師がいて、将軍の企みを読んで取り、不心得の七面鳥が使命を忘れてぼんやりとしているのを問題としないで、わざと驚いた風をして、地上を跳ね回り、両手を振って躍り回ったから、将軍はここにはじめて我が意を得た。相好を崩して喜び、子供のように笑いこけたというのである。
この道化《どうけ》た医師は、口中医某というのであるが、それから後、将軍は口中医の伺候を首長くして待った。そして、彼がくると何事を措いても七面鳥を庭へ呼び、
『傍らへ寄ってみよ、傍らへ寄ってみよ』
と、いうのである。
幼児が『
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