と、心をきめてひとりでにやにやとした。そして斉正が登城すると政務などそっちのけで、七面鳥まき上げの談判をはじめた。
 斉正にしたところ、いかに自分の女房にしたとこで、承諾も得ないでその愛玩物を差し上げるとは約束をし兼ねる。そこで、
『自分は、生来活き物が嫌いであるから、七面鳥など持っていない』
 と、答えた。
『その方、偽りを申すか』
 さっと、顔を紅にして腰を立てた。上殿から危うく転び落ちそうになったのを、背後から小姓が袍《うわぎ》を押さえた。斉正は、たかが七面鳥のことで、将軍と争うほどのこともあるまい、と急に考え直した。
『はははは……いやそれは、わたしの家内が飼っていますので――』
『そうか、叔母のものなら余のものと同じようなものじゃ。直ぐ持って参れ』
 とうとう盛姫は甥の家定に、鐘愛《しょうあい》措くところを知らない七面鳥をまきあげられてしまった。

     二

 鵞鳥は、何の表情も持たないが、七面鳥の喜怒哀楽には、甚だ変化があって面白い、と感じたらしい。けれど自分の観賞に誰も共鳴してくれる者がなかったので、まことに不満でいたところ、ある日奥医師が六人打ち揃って、拝診に伺候
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