から、浸剤《しんざい》などになると母が手伝います。
丸薬は母のお得意でした。私はいつか呑《の》み馴《な》れて、いつまでも愛用しました。兄たちから、そんなに呑んで、といわれるほどでしたが、父は何ともいわれませんかった。原料の這入《はい》った瓶には芳香酸としてありました。きっと健胃剤の類でしたろう。傍らの木の箱に、綺麗にした蛤《はまぐり》の貝殻があるのは、膏薬《こうやく》を入れて渡すのでした。その膏薬も手製です。よい白蝋《はくろう》を煮とかして、壺ようの器に入れてあり、それに「単膏」という札が貼《は》ってありました。その単膏に、さまざまの薬を煉込《ねりこ》むのですが、その篦《へら》が今のナイフのような形をしていて、反《そ》りの利く、しっかりしたものでした、何に使うのか、水銀を煉込むのを面白く思いました。銀色の玉が転《ころが》り出るのを上手に扱うのです。過《あやま》ったら大変です。そこら一面に銀色の小粒が拡がるのですから。
或年の大雪の降った翌朝のことでした。雨戸は開いたのに、私は少し風邪《かぜ》の気味だといって床にいましたが、横目で見上げると、樋《とい》のない藁葺《わらぶき》屋根の軒か
前へ
次へ
全292ページ中82ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小金井 喜美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング