、叱《しか》られはすまいかという心配と、穿《は》いているぽっくりという下駄《げた》、赤塗の畳付《たたみつき》で綺麗《きれい》な鼻緒がたって、初めは他所《よそ》ゆきだったのが、古くなってすっかり減ってしまい、庭下駄になっていましたが、昔ですから塗が堅く、赤色もそれほど剥《は》げてはいませんかった。その前鼻緒が弛《ゆる》んで来てその歩きにくいこと。それをお話するにはお兄様の様子が、どうもいつもと違ってつぎほがないので、我慢して指でまむしをこしらえて、とぼとぼ附いて行きました。
 田圃の中には幾坪か紅や白の蓮《はす》が咲いて美しいのも見えますが、立止りもしませんかった。半道ほども行った頃に、大橋際の野菜市場の辺から、別れた土手と一緒になって、綾瀬《あやせ》の方へ曲ります。その岐路に掛茶屋《かけぢゃや》がありました。「くずもちあり」とした、小さな旗が出ています。土手からすぐに這入《はい》られるようになっていても、土手下から普請の時の足場のようにして、高く高く掛出しになっていました。客は誰もおりません。
「休もう。」
 お兄様がお上りになったので、私も上りました。煙草《タバコ》を吸っていたお婆さ
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