縦の小路《こうじ》を曲ると宿場の街に出ます。右の方は崩れかかった藁葺《わらぶき》の農家が二、三軒あるだけで、あとは遠くまで畠や田圃《たんぼ》が続き、処々の畦《あぜ》には下枝をさすられた榛《はん》の木が、ひょろひょろと立っています。
 なかなか足がお早いので、兵児帯《へこおび》が腰の辺で絶えず動きます。私は長いおかっぱをゆらゆらさせて、離れまいと附いて行きます。木の狭い橋を渡って、土手へお上りになりました。その堤は毎日通う小学校の続きになるので、名高い大橋に対して小橋という、学校の傍の石橋の下《しも》になって、細い流《ながれ》が土手下を通っています。私は近くを散歩なさるのかとばかり思って、傍へ寄って、「お兄さん、遠くまでいらっしゃるの」と聞きました。大好きなお兄様ですけれど、何だか遠慮で、あまり話などはしないのでした。それまで何も仰しゃらなかったのが、「いや」と一言だけで、左へむけてお歩きになります。この辺はちょっと家がありますが、また両側に何もない長い長い土手が続くのです。あまり通る人もありません。私は心細くなりました。お母さんにお断りもしないで、不断著《ふだんぎ》のままで外へ出たのを
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