暫くしてから、ほんとに連れて行かれました。
お河童《かっぱ》頭に繻子《しゅす》の袴《はかま》、目ばかり光らした可愛げもない子供でした。お兄様のお供をするというのが嬉《うれ》しくて、喜び勇んで出かけたのです。牛込《うしごめ》のお邸《やしき》には黒くて厳《いか》めしい大きな御門がありました。昔の旗本《はたもと》のお屋敷のようです。お座敷へ通っても私はただ後の方に小さくなって、黙って坐っていました。家へ帰ってからお母様に、「薄暗い広いお座敷で、頭の禿《は》げたお年寄が、幅のひどく狭い袴をはいて、芝居の下座《げざ》でつけを打つ男のような恰好《かっこう》をしておられましたよ」と話しました。
芝居だって猿若座《さるわかざ》を一度か二度しか見ていないのですが、何だか様子が違って見えたのでしょう。
「まあこの子は。人様の噂《うわさ》をするものではありませんよ」と戒められました。
お兄様は、「黙っていると思ったら、そんな風に見ていたのか」とお笑いになりました。
その牛込の帰りには長瀬時衡《ながせときひら》氏のお宅へ寄りました。飯田町《いいだまち》辺でしたろう。やはり陸軍の軍医をお勤めで、詩文のお
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