嗜《たしなみ》があり、お兄様とはお話が合うのでした。ここでは気安く種々のお話をなさるし、奥様も歌をおよみになるので、優しく話しかけて下すって、お庭の石灯籠に灯の入るまでゆっくりしておりました。後に奥様は短冊を書いて下さいました。赤十字をおよみになったので、
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仇《あだ》みかたたすけすくひて万代《よろずよ》に
赤き心を見する文字かな
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綺麗《きれい》にお書きで、それは近年までありました。
石黒氏に贈った幅はどうなりましたろう。私を連れて行かれたのは、角立《かどだ》たないようにとのお心遣いだったかも知れません。その日には、それについてのお話はありませんでした。後にはお兄様も、石黒氏と立入ったお附合《つきあい》はなさらなくなったようです。
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写真
向島《むこうじま》に住んだ頃は、浅草へ行くというのが何よりの楽しみでしたけれど、歩いて行く時は、水戸様《みとさま》の前から吾妻橋《あずまばし》を渡って、馬道《うまみち》を通って観音様の境内へ入るので、かなりの道なのです。でなければ渡しを渡って花川戸《はなかわど》へ出
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