け、煮立ち始めると、蒂《へた》を左の指で持って、箸《はし》で廻りからそろそろ剥《はが》します。皮を破らぬようにするので、割合に早く煮えるものです。そこへ花鰹、醤油、味醂《みりん》などを順々に静かに注いで仕上げます。そっくり皿に取りますが、それを剥しながら食べるのがお好きでした。若い人たちは、お舟だといって皮をも食べます。
 全体に食物は、油濃いものの外は、あまり註文《ちゅうもん》をおっしゃらないので、いつでしたか歯が痛むといって、蕎麦掻《そばがき》ばかりを一カ月も続けられたのには皆|呆《あき》れました。
 小倉《こくら》在勤中は、田舎の女中ばかりでさぞ食物に困るだろうという母の心配から、註文のままに品物を送るのでした。それは醤油の樽《たる》――田舎は醤油が悪いそうで――とか、鰹節とか、乾海苔とかですが、品物は皆選びました。冬は好物だというので、鴨肉《かもにく》の瓶詰を家で作るのでした。私の主人が聞いて、もっと何かないかね、というのでしたが、人々の嗜好《しこう》ですから仕方がありません。私はよく牛の舌を送りました。薄く切って食べるのです。皮ごと塩で長く煮込むのですから、寒中などはよく持ち
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