順よく並べられますのを、松葉のようだと、いったものでした。膳の傍には、いつも濡《ぬ》れた布巾《ふきん》があります。指を拭《ふ》くためです。尤《もっと》もこれは壮年の頃のことで、晩年はどうでしたか知りません。日常の食事の時などは傍にいたことはありませんかったから。
 茄子はお好きだったようで、どんなにしたのでも召上りますが、炭火のおこった上に、後先《あとさき》を切って塩を塗ったのを皮のままで置き、気を附けて裏返します。箸《はし》を刺して見て、柔かに通るようになりますと、水を入れて傍に置いた器に取ります。程よく焼けて焦げた皮をそっくり剥《は》ぎ、狐色《きつねいろ》になった中身の雫《しずく》を切って、花鰹《はながつお》をたっぷりかけるのですが、その鰹節《かつおぶし》や醤油《しょうゆ》は上品《じょうぼん》を選ぶのでした。
 大きくて見事な茄子のある時は亀《かめ》の甲焼《こうやき》にします。これは巾著《きんちゃく》などというのでは出来ません。まず縦に二つ割にして、中身に縦横|格子形《こうしがた》に筋をつけ、なるべく底を疵附《きずつ》けぬようにして、そこへ好《よ》い油を少し引き、網を乗せた炭火にか
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