同の贈物に、牛に乗った童子の銀製を選んだのは兄でした。
父は口数の少い方で、患者に対しても余計なことは申しませんが、親切なので、その人がらを好む患者がつぎつぎと知人を紹介して、だんだん病家は殖《ふ》えるのでした。その頃向島にも医師会が出来て、おりおり寄合《よりあい》があり、扱った珍しい患者とか、その変った容態などを代る代る話合うことになりましたが、父はそれを非常に苦にして、「実に困ってしまう。己《おれ》は皆も知っている通り口下手《くちべた》だからなあ」といいます。
その時母は申しました。「それでは林《りん》に相談してみましょう。何とかよい考えがあるかもしれません。」
その頃兄は、土曜日ごとに家へ帰って来るのでした。年はまだ十七、八歳でしたろうか、両親は頼もしいものに思って、何事も相談するのでした。
「何かよい考《かんがえ》はないかねえ。お父様は今までにそんなことに馴《な》れていられないから、ひどく苦にしていらっしゃるのだが。」
そこで兄は、様子を父から聴いて、二、三枚の原稿を書きました。
「こんなことではどうでしょう。私の考違いがあったら直します。」
父は喜んで、「いや結構だ
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