》に葡萄が這《は》わせてあります。持って来てくれたのはその葡萄なのでした。
「的場へは済生学舎の書生さんたちが来ます。私がこんな恰幅《かっぷく》をしているものですから、雲岳女史などいって親《したし》んでくれます」などといって、はつは嬉《うれ》しそうにしていました。雲岳女史は村井弦斎《むらいげんさい》が書いた新聞小説の中に出て来る大兵《だいひょう》な女傑です。
客のいない日に、主人が慰みに大弓を引きますと、面白いように当ります。目は見えなくても長年の勘で当るのです。不断は前屈《まえかが》みになっていますのに、弓を取って肘《ひじ》を張った姿はしゃんとして、全く見違えるようです。
はつはそんな話をして、「長々お邪魔をしました」といって帰りかけます。「田舎では」と私が聞きましたら、「それをお話するのでした」と、また腰を据えて、実家の父の病気見舞に行った話をしました。看護婦の姿で、駅から車に乗って、遠廻りでも町を通って、染物屋の前を過ぎましたら、隣の家で驚いていたそうで、父も大変喜んでくれたというのです。
「また伺います。」そういって立上って、また思出したように、「ちか子さんはお元気でしょう
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