が、その写真はいつの間にかなくなりました。
 はつはこんなに行届いていて、誰にでも好かれるのでしたが、二年ほどで暇を取りたいといい出しました。といいますのは、もともとどうかして自立したいと思っていましたところへ、目の前によいお手本が現れたからでした。

 話が別のことに移りますが、はつより先に、主人の郷里長岡の旧藩士で小林という家のちか子という十五になる子が、子守《こもり》にどうかとのことで来ていたのでした。不仕合《ふしあわせ》な境涯の子でしたが、無邪気な、素朴な様子をしていて、少し馴れましたら、小さな女の子を背負い、男の子の手を引いて、その頃流行していた「壮士の歌」というのを歌いながら、広い庭をあちこち歩きます。その歌というのが、「東洋に、屹然《きつぜん》立ったる日本の国に、昔嘉永の頃と聞く、相州浦賀《そうしゅううらが》にアメリカの、軍艦数隻寄せ来り、勝手気ままの条約を、取結んだるその時に」云々というのです。子供は物覚《ものおぼえ》が早いものですから、上手にそれを真似《まね》します。
 昼間はそうして子供をよく遊ばせますが、夜になると、「私に読める本があったら見せて下さいまし」といっ
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