は吸わないのですから、退屈そうでした。たまに私が子供を連れて行きますと、ひどく喜んで、「御馳走《ごちそう》しましょう、栗を持ってお出《いで》」といって、栗の堅い皮を小刀でお剥《む》きになります。「危いではありませんか」といいますと、「私は目で見ないで、勘でするのだから」と、なるほど上手になさいます。「渋皮はそっちで剥いて、御飯に焚《たい》ておくれ」と御機嫌です。
その間にも、よく鼻をおかみで、紙屑籠《かみくずかご》はじきに一杯です。「年寄は皆鼻をかむものだが、私の洟《はな》のひどく濃いのは、脳味噌がだんだん溶けて出るのらしいよ」といわれるので、「まさか」といって笑います。
女中たちが早く用事の片附いた夜などに、「御隠居様、お相手をいたしましょう」と、花がるたなどをしますと、始めは喜んでいられますが、あまり負かしては気の毒だと思って斟酌《しんしゃく》しますと、勘がよいのですからすぐ悟って、「もうおやめにしましょう」といわれるのでした。
追々に残った方の目も見えなくなり、火鉢の傍で泣いていられるのがお気の毒でした。母が心配して私の宅へ来られて、「あんな年寄でも手術が出来るものかしら」
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