ん。
「そうではありませんよ。遠方へほんとに連れて行かれたら大変だと思って入院させるのです」と、納得させるまでが長くかかりました。
いつも日当りのいい処で、眼鏡をかけて裁縫をなさいますが、針箱などはありません。何か黒塗の処々|剥《は》げた箱を使うのでしたが、その辺は綺麗に片附いていて、糸屑《いとくず》など散らかっておりません。解き物などをするのにも、長いのは皆|揃《そろ》えてしばって、たとうへ入れてあります。それらは袖廻りとか、絎物《くけもの》とか、当りの強くない処にだけ使うのでした。新しい糸は背筋、脇縫《わきぬい》などに使います。それも大抵寸法を取って切り、右手で縫い始めて、終りますとちょっと左の手で針を持ちかえて、二針三針返し縫をすると糸がなくなります。「両刀使いですね」といいました。短い糸はつなぎ合せて玉にしてあり、それも木綿と絹とが別にしてあって、幾つか溜《たま》ると蒲団《ふとん》の被《おおい》などに織ってもらいます。
老眼の度が進んだばかりでなく、白内障になって、片方は全く見えず、片方も視力が大分弱ってからは、絵のある本を二、三冊傍に置いて見ていられました。煙草《タバコ》
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