に濡《ぬ》れている。高下駄《たかげた》で辷《すべ》りそうだし、橋板の落ちている所もある。桁《けた》の上を拾って歩くと、またしても足許に小僧が絡む。そんなことでどれだけ時間が立ったか、汗びっしょりになった時に和助が来てくれたのだ。」
これを聞いた祖母は、目を円くしていいました。
「それはきっと狸《たぬき》でしょう。あの辺には狸が出るように聞きました。」
「何だか知らぬが、誰にもいわぬように。」
口止めをされたので、祖母は誰にも話しませんかったが、母だけは知っていました。祖父は碁に凝ったためと思われたと見えて、その後は碁石を手にせられませんでした。
長兄のお書きの伊沢蘭軒《いざわらんけん》の伝にも、似寄りの話が出ています。蘭軒が病家からの帰途、雨の夜で、若党が提灯を持って先に立って行きます。蒟蒻閻魔《こんにゃくえんま》のお堂に近い街を過ぎる時、菅笠《すげがさ》を被った童子が後から走って来て、並んで歩きました。
「おじさん、怖《こわ》くはないかい。」
蘭軒は答えません。童子は反覆しました。若党は振返って見るなり、「あっ」と叫んで、傘と提灯とを投出しました。
「どうしたのだ。」蘭軒が問
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