く見ますと、それが御主人で、傘は拡《ひろ》げたままで足許《あしもと》を見ていられます。
「旦那様《だんなさま》、どうなさいました」と、声を懸けても聞えぬらしいので、「旦那様、旦那様」と、なおも呼びながら近寄りました。
「旦那様、雨は止んでおりますのに」といって傘を取りましたら、初めて気が附いて、「あゝ和助か」といわれます。
「そちら側は板が落ちていて、お危のうございます。こちら側をまいりましょう。」
 そういって、お供をして帰りましたが、家に著きましても、あまり口を利かれません。それでも家の人たちは安心して、「きっとお酒が過ぎたのでしょう」と思っていました。
 その翌日、祖父は祖母に話されました。
「ゆうべ先方《せんぽう》を出ると、人通りのない道を、笠《かさ》を被った小僧が素足でぴちゃぴちゃ附いて来るので、傘の中へ入れてやったが、足許に絡《から》みついて歩きにくいことといったら少しも道がはかどらぬ。連《つれ》はないのか、どっちへ帰るのか、と聞いても返事をせぬ。顔を見ようとしても、小さな笠で分らない。やっと川の辺へ来たら、『こっち、こっち』と袖《そで》を引いて、橋の方へ行く。橋は雨で一面
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