心弱い里方の父もその応対に困り果てましたが、その時祖母が、「先様《さきさま》には何の申分もありませんが、亡夫より男ぶりが悪いから御免を蒙《こうむ》りましょう」といわれたので、仲介者も口をつぐんだとのことでした。もとより口実だったのでしょうけれども、聞く人もそれを怪《あやし》まなかったのです。
 その祖母から私は、一人きりの女の子というのでかわいがられて、夜《よ》なべをしながらよく祖父の話をして下すったので覚えているのですが、その内の一つに次のようなのがあります。
 或年の三月頃の晩、祖父は知合の家で碁を打って、夜を更《ふか》されました。その日は空が薄曇っていて肌寒く、今にも雨がこぼれそうだと思う内に、本降《ほんぶり》となりましたので、家では若党の和助を迎いに出しましたら、とくに帰られたというのです。夜更にどこへ寄られたろう、行違いになるわけもないし、もうお家へお著《つき》かも知れぬと思いながら帰って来ますと、いつか雨が止《や》んで、月が出ています。傘を畳んで、提灯《ちょうちん》を消して、川の辺まで来ますと、川の水が光ってそこらが明るく、橋の上に何やら立っているものが見えます。立止ってよ
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