遠い昔です。私どもが幼くて向島《むこうじま》に住んでいた頃、土手の桜の花の盛りに、やっと歩かれるようになった弟の手を引いて、お母様たちともよくその辺を散歩したものでした。その頃の隅田川《すみだがわ》には花見船が静かに往き来していて、花びらがちらちらと川の水に散りかかっていたのでした。並木の桜の散るのを見て、その頃がなつかしく思出されました。
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雪の日に早くかへれとわれいひぬ
    つひのわかれと知るよしもなく
わが涙たゞしづくすれぬかづきて
    のごひもあへず香たてまつる
かひなしと知りつゝその名一声は
    呼ばであられぬわれなりしかな
なき人をきのふもけふも訪ふ家の
    庭の白梅ちることしきり
羨《うらや》ましかの世に行きてむつまじく
    父母兄達とかたりますらん
茶羽二重大きく白き菊の紋
    兄のかたみをよみの晴著《はれぎ》に
人の世のはかなさ見せてゆく道の
    並木のさくら雪とちりかふ
はや十日かすかにちりの積もりたり
    君が手ふれしうづたかきふみ
親はらからみなつぎつぎにさきだちて
    ひとりのこりぬ七
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