九を、「太藺(ふとい)と七子(ななこ)だ。織物二つで覚えいいだろう」などといわれましたが、余人にはそれもむつかしいというので、後には「藤色七子」と赤い紙に書いたのが、電話器の下の柱に貼《は》られたようでした。ですから時に番号が変りでもしますと、それはそれは苦い顔をなさいました。
いつでしたか、夜分《やぶん》になって尋ねましたら、お嫂《ねえ》さんはお留守です。まだ小さかった類《るい》さんは病気で寝ていました。ちょっと話していますと、電話のベルが頻《しき》りに鳴ります。女中が出ますと長距離らしいのです。取次いでも、兄は頭を振るだけで、出ようとなさいません。行合せた私が出て見ましたが、よその家のことですから、はっきりしたことはいわれません。「どうしましょう」と伺いますと、「捨てておけ」とおっしゃいます。電話はいよいよ鳴ります。その頃いたつるという若い女が出て、何とかいって切ったようでした。お嫂さんはどこかへお出かけで、その晩はお帰りにならないのですが、さすがに類さんが心懸りで、様子を問おうとせられた電話なのでした。そんなことはよくあるのだそうで、何だかお気の毒で、早々にお暇《いとま》しまし
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