上げ]寸介由伎
きみ子様
お名前はいつも万葉仮名で、判で捺《お》したようでした。
手紙ではありませんが、小出粲《こいでつばら》氏の筆の跡も残っております。小出氏は常磐会の歌の選者の一人です。もと石見《いわみ》浜田の藩士で、初め荒木寛畝《あらきかんぽ》に画を学ばれましたが、武芸を好まれて、宝蔵院流の鎗術《そうじゅつ》の皆伝を受けられたそうです。井上通泰氏が小出氏とお心安かったのは、嗜好《しこう》が同じだったからかも知れません。井上氏も棒をお遣いになって、その御秘蔵の棒に石上《いそのかみ》という名を附けられたと聞きました。石上は「ふる」の枕詞《まくらことば》です。
小出氏の墨蹟は、常磐会の題詠を見て下すったので、次の如くです。
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春雨
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春雨は降るとも見えず薄月《うすづき》の
匂ふ軒端に梅の花ちる
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此歌よろしけれど、或は類歌あるべく、いさゝか陳腐のきらひあり。
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川霞《かわがすみ》
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薄月の空に匂ひて川ぞひの
柳をぐらく霞たなびく
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