もん》ぜられ候ゆゑ、名誉より説くべきに候はんか。小生なども我は有用の人物なり、然《しか》るに謫《たく》せられ居るを苦にせず屈せぬは、忠義なる菅公《かんこう》が君を怨《うら》まぬと同じく、名誉なりと思はば思はるべく候。おきみさんもおのれほどの才女のおしめを洗ふは、仏教に篤き光明子《こうみょうし》がかたゐの垢《あか》をかきしと同じく名誉なりとも思はば思はるべく候。これは方便にして、名誉の価は左《さ》ほど大ならずともいふべけれど、名誉より是《かく》の如く観じ候如くに道の上より是の如く観ずるときはおのれの為《な》す事が一々愉快に、一々大切なるべく候。飛んだ説法に候へど、おきみさんへの返事のかはりに、此《この》紙に筆に任せ認《したた》め進じ候。
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十四日[#地から3字上げ]林
母上様
半紙を四枚|綴《と》じて毛筆で書いてあります。年月はありませんが、三十三年の秋の頃でしょう。
小倉というので思出しましたが、三十二年六月九日に赴任が発表になって、十四日に出立というので、主人が新橋へ参りましたら、大勢の見送りがあったといいます。しかしそれは形式上のことだそう
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