らでしょう。沢山の註文《ちゅうもん》があると見えて、出来たのを入れた箱が積んであります。
「あれは園遊会などの余興にも出るのだよ。囃《はや》しにつれてするのを曲取《きょくどり》とかいうそうだよ。まあ御覧、上手《じょうず》に投げるではないか」と、祖母も感心していられます。ほんとに鮮かな手際《てぎわ》です。三人の職人もそれぞれに順よくまぶして、傍の箱に並べるのです。その出来立を買いましたら、別の人が傍の箱から取って包んでくれました。その晩はその話をして、特別おいしく頂きました。
なお少し行きますと、左手は春木座《はるきざ》のある横町です。それほど高級の芝居ではありませんから、上手の役者ばかり出るのではないでしょうが、いつも非常な繁昌《はんじょう》です。そこでは客の脱いで上った下駄を、帰りまでに綺麗に掃除して置いてくれるというので評判でした。
粟餅の立見《たちみ》などをして遅くなったので、急いで帰ります。その途中|藤村《ふじむら》で、父からの頼みの羊羹《ようかん》を買いました。藤村は大学の横手にあるよい菓子店です。下宿で兄がそれを見て、「この羊羹は上等だね」といわれたのに、祖母は得意そう
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