さいのでした。父は千住で開業医をしていられて、人出入はあるのですけれど、私は偏屈な性質で、心安くする人もなく、学校の同級生には、近くの西洋造りらしい屋敷に住んで派手に暮すお医者さんの娘と、土地で名代《なだい》の軽焼屋《かるやきや》の娘とがありましたが、その軽焼屋も大分離れているので、行ったことはありませんかった。ただ家で本を読んだり、裏庭で土いじりをするくらいのものですから、兄に附添って下宿にいられる祖母が、用事があって家へ来られた時に連れて行ってもらうのが楽しみで、祖母の来られるのが待たれました。
下宿ではいつも好んで鉄門の見える窓の際にいました。いろいろな人の出這入《ではいり》が珍しいのです。日蔭に植えた低い檜《ひのき》があるので、外からは見えません。首を伸ばせば時計台は真正面です。その時計は大きなもので、五尺あるとか聞きました。始めて行った時、頭の上でちょうど時を打つカーン、カーンの音を聞いて、珍しいあまりに大声を挙げて、「鳴りましたよ、鳴りましたよ」といって、「静かになさい」と叱《しか》られました。あまり大き過ぎるためか、時は正確ではなかったそうです。月に一回、裏から梯子《は
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