いって遣ったが取りにも来ない。」
「お兄様は何とおっしゃるの。お家に似合いませんね。」
「おれの部屋だから構わんのだろう。」
 そんな物に趣味を持たぬ父は、お茶の道具を丁寧に片附けながら、「もう鳥の餌を作らねば」と、小さな鉢や木箱などを幾つか取出して、頻《しき》りに交ぜたり摺《す》ったりしていられました。
「昔のお薬の調合のことを思出しますね。」
 子供は珍しそうに見詰めておりました。
 出来上った新築の二階家の玄関は、母の趣味で広い式台が附き、塗縁《ぬりぶち》の障子が建ててありました。「こうして置かねば、お邸のお部屋様やお姫様方をお招きするのに似合わないから」というのでした。旧藩主の方々をお招きしたいというのが、かねてからの母の願いなのです。この二階が観潮楼です。
 崖の見晴らしに建てたのですから、俗に雪月花によしというわけで、両国に花火のある夜などは、わざわざ子供を連れて見せに行ったりしました。まだその普請中に行きますと、祖母などが、「もっと近くへ越してお出《い》で。私は出られぬし、ちょいちょい逢いたいから」といわれますし、主人が終生出入する心組《こころぐみ》の大学へも、それほど遠
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