よく育ててと、御熱心なのは涙ぐましいようでした。長州からお輿入《こしい》れになったとの事ですが、ただ美しいといっても、艶《えん》なのと違ってお品よく、見飽きないお姿でした。美しいものの好きな母は、いつも歎称しておりましたが、後年兄の嫁をという時に、「おあや様のような方はないものかしら」といって、父に笑われました。
お白酒をいただき、下の段にあったお道具を下さったのを持って帰りました。机の上に並べましたが、ほかには何もありません。
「お雛様でなくても、何かあった小さい品を、詰合せにして持って来ればよかったわね。」
祖母はつくづくいわれました。森は小藩の医者の家で、質素に暮していたのでしたから、東京へ出るといっても、少しの荷物しかありません。家内中|戦《いくさ》にでも出るような意気|込《ごみ》なのでしたから、お雛様を飾ろうなどとは、夢にも思わなかったのでしょう。
「お兄さんにお雛様を画いておもらいなさい」といわれてお願いしましたが、「そんな絵は画けないよ」といわれました。それでもとうとう画いてもらったのを壁に針で止め、桃の枝を探して生けましたら、母が豆妙《まめいり》を造って下すったので
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