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   団子坂の家・曙町の家

 昭和二十年三月二十日のことでした。かれこれ五十年近くも住み馴れた本郷曙町《ほんごうあけぼのちょう》の私の家へ、強制疎開の指令が来て、十日以内に引払えとのことです。どことて空襲の来ぬ処があるはずもなし、やっと目黒《めぐろ》辺で地方へ疎開した人の家を探して移ることにしましたが、さて荷物運搬の便がありません。曙町の通から吉祥寺《きっしょうじ》前まで、広く取払われて道路になるので、私どもの家並は皆取崩されるのですから、荷物を山と積上げたトラック、馬力《ばりき》で一杯です。自然|競《せ》りあげられて、一台千円などという法外な値となります。向側は何事もなくて、立派な家が並んでいます。そこの人たちはそれぞれ地方などへ疎開して、空家《あきや》に留守番だけがいるのでした。そこでそのお家へ、大切な品はよく梱《くく》って幾つか預け、手廻《てまわり》の品だけ持って引移りましたが、どんな些細《ささい》な物にも名残が惜しまれるのでした。少し落ちついたら運んでくれるという約束でしたから、毎日のように電話をかけたり、見廻りに人を遣っていましたが、やっと都合が附いて、明日
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