そこの溝川《どぶがわ》へ這入ったかと思うと、今まではそれほどいようと思わなかった蛙が一度にがあがあ鳴出して、潜《もぐ》るのもあれば、足を伸して泳ぐのもあり、道へ飛上るのもあって、大騒ぎです。蛇は勢よく鎌首《かまくび》を立て、赤い舌を吐いてあちこちします。その気味の悪いこと。その辺の子供たちや、通りがかりの人が立止って見ています。蛇は蛙を追い追い水を伝わって遠退《とおの》きます。大勢の人たちもそれに連れてぞろぞろ行ってしまいました。
 明治天皇の東北御巡幸の時は、千住方面から御出発でした。広くもない往来は、朝の内から厳重な警戒です。千住まで皇后陛下の御見送りがありました。それで学校はお休みだったのでしょう、私は通りへ出て、橘井堂医院の大きな招牌《かんばん》の蔭から覗《のぞ》いて見ました。そこらの人たちが並んでいます。赤筋の這入った服の騎兵が、鎗《やり》を立てて御馬車の前後を警固して行きます。騎兵の人々に遮《さえぎ》られて、よく拝されません。やがて皇后陛下の御馬車が近づきました。折よく辺りに人もいませんかったので、御馬車の中も幾分見えました。御《お》すべらかしのお髪《ぐし》、白衿《しろえり
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