》にお襠《うちかけ》、それらがちらと目の前を過ぎました。御陪乗の人はよく見えません。続くお馬車に、やはり御すべらかしが二人乗っていられました。それからまだ次々と御供が続きます。御小休所は三丁目の中田屋という、北組第一の妓楼の本宅で、店とはすっかり別になっていて、大層立派な建築のように聞きました。
お父様は平生《へいぜい》決して妓楼へはいらっしゃらないのですが、その折は前以て病気の人でもあってはと、お出になったかに聞きました。
「外に場所はないのかねえ」「何だか勿体《もったい》ないような気がする」などと話合いましたが、土地がらだけに、何かある時に勢力があって、指折られるのは妓楼なので、致方《いたしかた》なかったのでしょう。
その頃お兄様は陸軍に出ていられました。極った時間にお帰りなのに、それが後れて、少し薄暗くなって来ますと、私はもうじっとしていられません。通りまで出て、招牌の蔭から往来を見詰めています。そこの角は河合という土蔵造りの立派な酒屋で、突当りが帳場で、土間《どま》の両側には薦被《こもかぶ》りの酒樽《さかだる》の飲口《のみぐち》を附けたのが、ずらりと並んでいました。主人は太
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