》にかけて調合はしてあるのですから、ただ量だけを計って、幾包かを渡しますと、「さぞ年寄が喜びましょう」と、にこにこして帰りました。
 後で聞きましたら、それは何代目かの人の発明で、鹿の頭の黒焼を基にしたのだそうです。胃腸の薬で、持薬にするとのことでした。一藩中どこの家にも備えてあって、家伝の妙薬といわれ、あまりに需要が多いので、幾ら山国でもなかなか原料が間に合いません。山蔭に竈《かまど》を据えて、炭を焼くようにして、始終見廻るのでした。頼んだ人夫《にんぷ》に心懸けのよくないのがあって、そっと牛の頭を混ぜて持って来て、そのためにひどく面倒になったことがあるそうです。今もチャーコールなどというのがありますから、きっと効《き》き目があったのでしょう。
 車小屋が出来る時、板が間に合わないので、少しの間|葭簀《よしず》を引いて置きましたが、やがてそれを捲《ま》いたのが、片隅に寄せてありました。茶の間の前の軒に雀《すずめ》が巣をかけて、一日幾度となく、親雀が餌《えさ》を運びます。早く夕御飯をしまった私は、少しの米粒を小皿に取って、右の葭簀の一本を抜いて来て、その先に附けて巣のある辺へ出しましたら
前へ 次へ
全292ページ中144ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小金井 喜美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング