な絵の中に、牧童が牛の背に乗って、笛を吹いている顔が可愛らしいので、何枚も画いてもらい、「もっと可愛くして頂戴《ちょうだい》」といって笑われた事もありました。
 程近い旧藩主の邸内に、藩の人たちが御末家《ごばつけ》と呼ぶお家がありました。御親類つづきなのでしょうか、若い美しい御後室《ごこうしつ》と幼い姫様とがお住いでした。綾子様《あやこさま》、八重子様《やえこさま》と申すのですが、皆おあや様、お八重様といいました。父が御診察に伺った時、飾ったお雛様《ひなさま》を拝見して来て、「実に見事なものだよ。御願いして置いたから拝見にお出《い》で」ということなので、母と一緒に伺いました。お仮住いなので広くはありませんが、床の間に緋毛氈《ひもうせん》をかけた一間幅《いっけんはば》の雛段は、幾段あったでしょうか。幾組かの内裏雛、中には古代の品もありました。種々の京人形や道具類がぎっしり並んでいて、あまり立派なので、私は物もいわずに、ただ見詰めておりました。
「よくこれだけのお品を、お国から傷《いた》めずにお持ちになりましたこと。」
「私どもがそこに住んでいましても、蔵の品はいつか知らぬ間に減るばかりで
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