にも五、六年|住馴《すみな》れて、今さら変った土地、それも宿場跡などへ行くのは誰も彼も気が進まず、たとえ辺鄙《へんぴ》でも不自由でも、向島に名残《なごり》が惜しまれるのでした。
千住の家は町からずっと引込んでいて、かなり手広く、板敷の間が多いので、住みにくいからと畳を入れたり、薬局を建出したり、狭い車小屋を造ったりしました。ちょうどその辺に大きな棗《なつめ》の木と柚《ゆず》の木とがあったので、両方の根を痛めないようにと頼んだのでした。向島での病人は、みんな居廻《いまわ》りでしたが、ここでは近在から来る人が多いので、車を置く場所を拵《こしら》えたのです。代診二人、薬局生一人、それに勝手を働く女中と、車夫とが来ました。今までは家内だけで暮していたのに人が殖えて、お嬢さんといわれるのはよいのですが、「書生さんに笑われますよ」とか、「女中が見ていますよ」とかいわれるのが窮屈でした。
庭を正面にした広い室に大きな卓があって、その上には、いつも何かしら盆栽が置いてあります。片隅には診察用の寝台、その傍の卓にはいろいろの医療器械や電気治療具などもありました。痺《しび》れる病人に使うのでしょう。皆
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