えました。お邸の御家老の清水さんという人が、お家にお風呂《ふろ》はあるのでしょうに、毎日お湯屋へ行かれます。小雪の降る日にも湯上り浴衣《ゆかた》で、傘をさしてお帰りです。お母様が一度|御挨拶《ごあいさつ》をなすったので知りました。著物《きもの》は持っていられません。女中でも取りに行くのでしょう。恰幅《かっぷく》のいい、赭《あか》ら顔の五十位の人でした。
その頃のお湯屋は、長方形の湯槽《ゆぶね》の上に石榴口《ざくろぐち》といって、押入じみた形のものがあって、児雷也《じらいや》とか、国姓爺《こくせんや》とか、さまざまの絵が濃い絵具で画《か》いてあり、朱塗の二、三寸幅の枠が取ってあって、立籠《たちこめ》る湯気が雫《しずく》となって落ちています。そこを潜《くぐ》って這入《はい》るので、人の顔など、もやもやして分りません。どんな寒中でも、長くはいられないでしょう。けれども昔の人は熱い湯に這入りつけていましたし、それが幾分|誇気味《ほこりぎみ》でもあったらしいのです。
近くにはお湯屋がないと見えて、大勢人が行きます。拍子木《ひょうしぎ》の音が聞えるのは、流しを頼むので、カチカチと鳴らして、三助
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