五人も六人も行方《ゆくえ》わからずになって、それっきり一向帰って来ないと云うことを聞いています。あれは大方、それの神よばいなのでしょう。
男9 うむ。……今年も、物忌を怠って、誰ぞまた神隠しにかからなければよいがな。現に西の空の雲気は確かにわざわいのきざしをあらわしているのだ。
[#ここから2字下げ]
人々ががやがやと集って来て、そこら辺に立ち呆《ほう》けて、右手奥の方を眺めている。験者達の呼ばい声、鈴の音は、次第次第に熱ばんで来る調子。
吐菩加美 ほッ 依身多女 ほッ
吐菩加美 ほッ 依身多女 ほッ
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
男10[#「10」は縦中横] あの大原野の巫女の嬢子《じょうし》については、誰もつまびらかに顔さえ見たことが無いと云うのに、まあ、縁起のよくない噂話が色々とつきまとっていましたようで、何でも、その家は宇佐《うさ》の神人《じんにん》の亡び残りだったそうでございます。その嬢子の親御で何とか云う老人がまだ生きていた時分は、もう人の顔さえ見れば、愚にもつかぬ夢物語を真《まこと》しやかにふりまいていたと云うので、世間からは
前へ
次へ
全202ページ中99ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
加藤 道夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング