えて来る。だんだん明瞭《めいりょう》に聞えて来る。

吐菩加美《とほかみ》 ほッ 依身多女《えみため》 ほッ
吐菩加美 ほッ 依身多女 ほッ

吐菩加美 ほッ 依身多女 ほッ
吐菩加美 ほッ 依身多女 ほッ
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男9 おう。……あれは魂《たま》ごいの験者《げんじゃ》どもが、どこぞの山へ、山籠《やまごも》りの行に出掛けて行くのだ。誰やら神隠しにでも遭《お》うた人々のあくがれ迷う魂を尋ねて、山へ呼ばいに行くところなのだ。
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左手から右手へ、都の子童《こわくらべ》が二三人「験者だ! 験者だ! 山籠りの験者がたくさん行くぞ!」などと呼びながら、駆けって行く。左手から右手へ急ぎ足で見物に行く人達がだんだん多くなる。
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男10[#「10」は縦中横] ああ、そう云えば、大原野の巫女《みこ》になるはずだったと云う娘が、去年の賀茂《かも》の祭の日に突然神隠しに遭ってからと云うものは、あっちにひとり、こっちにひとりと都の童児《わくらべ》どもが、
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