」に傍点]の一種だ位にしか考えていないようではないか。それでは何にもならない。……元来、この葵と云う花は、必ず太陽の方に向って咲く、云わば陽の花だ。それだからこそして、悪いやまいや怨霊《おんりょう》を払う不思議な力があるのだ。それをみんな弁《わきま》えないで、ただもう、あたり前の習慣だ位の気持でくっつけているから、その弱みにつけ込んで、わざわいがふりかかって来るのだ。だから、やれ、西の空に「ふそう雲」が現れたと云ってはうろたえ、「ほこ星」が光り始めたと云っては、恐ろしがる。それでは、この当世に生きる者として、誠に不甲斐《ふがい》のない話ではないか。云わば我々|陰陽《おんよう》の道にたずさわる者は、そう云う迷《まど》える魂を、現《おつつ》の正道に引戻してやろうと云うわけなのだ。
男10[#「10」は縦中横] (突然、立止って耳を澄まし)先生!……あの声は、あれは一体何でございましょう?
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右手奥の方から、多勢の行者達の魂《たま》ごいの行《ぎょう》の呼ばい声が不気味に聞えて来る。
たくさんの鈴の音が、ちゃりんちゃりんとそれに調子を合わせて、何やら幻妙な響きを遠くから伝
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