平安人達が、あるいは左から右へ、あるいは右から左へと、会話をしながら往来する。その他、無言の通行人、行商人等も多勢往来する。
誰《だれ》も彼もが華《はな》やかに着飾《きかざ》り、それぞれ美しい花のついた葵の鬘《かずら》をかけて、衣裳《いしょう》には葵の蘰《かずら》をつけている。……
遠くで、神楽《かぐら》の笛がひびいている。街は人々のさざめきに充《み》ち溢《あふ》れている。
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男1 (右より)ええ、そこを偶然この私が通りかかったと云うわけなのですよ。
男2 ほう。……それはまたこの上もなく運がよろしゅうございましたねえ。
男1 ええ。もう、何と云いますか、あたりは夕靄《ゆうもや》に大変かすんで、花が風情《ふぜい》あり気《げ》に散り乱れている。……云うに云われぬ華やかな夕方でした。……私も実はなぜかしらず心が浮き浮きしていましたもんで、……あの女《ひと》がすーっと簾《すだれ》を巻き上げて、こちらの方をちらっと見られた時の、そのかおかたちの美しさと云ったら、……それこそもう……(二人左へ退場)
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