しばらくは「大納言様! 大納言様!」と呼ぶ声。
やがて、舞台は急に大風一過。不気味なほど、寂然《せきぜん》とする。
文麻呂も清原も、まるで空《うつ》けたように、呆然として、立ちつくしている。
舞台はしばらくそのまま。………
やがて、あたりには、再び次第次第に緑の木洩日《こもれび》がきらきらと輝き始める。それに従って、思い出したようにまた小鳥が遠近《おちこち》で囀《さえず》り始めた。
なよたけ、右手奥の部屋から、かすかにすすり泣きながら、静かに姿を現わす。草履をはいて、土間の外に出る。
二人の青年が立っているのに気付き、瞬間、身じろぎをするが、つと逃げ去るように小路の方へ行く。……二人に背を向けて、悲しげに泣きじゃくっている。文麻呂は初めて見るその美しい姿に恍惚《こうこつ》としてしまう。
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文麻呂 (静かに、背後からなよたけの方に近付き、優《やさ》しく慰《なぐさ》めるような声で)……なよたけ。……もうお泣きになることはありませんよ。
清原 (震《ふる》え声)なよたけ。……
なよたけ (くるっ[#「くるっ」に傍点]と振向
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