ひっこみがてら)まあ、まあ、あのなよたけの奴め、田舎娘のくせして、暇《ひま》さえあれば、まあ、簾《すだれ》のかげで古琴なんぞ弾いて、あれで気取った積りなのでござります。
御行 (居間の端に腰を掛けながら)あ、それから、お爺さん。……これはなんですが、なよたけの素性も私の素性も、露顕《ところあらわし》の式でも済むまでは絶対に秘密にして、誰にも知らさぬようにお願いしますぞ。
造麻呂 (怪訝《けげん》そうに)……へえ、ま、……
御行 いや、別にこれはどうと云うわけもないのですが、ただあのようにうるわしいなよたけをしばらくは皆のものに秘密にしておいて、三日の餅《もち》でも祝って、立派な奥《おく》の方《かた》になってから、公然と皆のものを羨《うらやま》しがらせようと云う気持なのです。……葵祭《あおいまつり》の日あたりにでも、お迎えの車をこちらに寄越せたら、……と思っています。
造麻呂 へえ、……何分と宜《よろ》しくお願い致しますでござります。……どうも手前、田舎者でございまして、さようなことはとんと勝手が分らぬもので、……(大仰《おおぎょう》に右手を指し)では、なよたけを呼んで参りまする。……(
前へ
次へ
全202ページ中77ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
加藤 道夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング