や「恋愛心理」にうつつをぬかしているとお思いになるんでしたら、それこそそれは大変な誤解です。今、僕達の心を一番|捉《とら》えているのは、例えばそれはお父さん、……これなのです。(懐《ふところ》から一冊の本を取り出す)
綾麻呂 よろずはのあつめ……
文麻呂 万葉集って読むんです。
綾麻呂 奈良朝のものだな?
文麻呂 お父さん。これこそ僕達の求めてやまぬ心の歌なのです。
綾麻呂 巧《うま》い歌があるのかな? (黙って頁を繰《く》っている)
文麻呂 読んでごらんなさい。どこでもいいから、お父さん、ひとつ読んでごらんなさい。
綾麻呂 (何気なく開いたところを読み始める。夕日が赤々と輝き始める)玉だすき 畝火《うねび》の山の 橿原《かしはら》の 日知《ひじ》りの御代《みよ》ゆ あれましし 神のことごと 樛《つが》の木の いやつぎつぎに 天《あめ》の下 知ろしめししを そらみつ やまとをおきて 青によし 平山《ならやま》越えて いかさまに 思ほしけめか 天《あま》さかる 夷《ひな》にはあれど 石走《いわばし》る 淡海《おうみ》の国の ささなみの 大津の宮に 天の下 知ろしめしけむ すめろぎの 神の
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