みことの 大宮は ここと聞けども 大殿は ここといえども 霞《かすみ》立つ 春日《はるひ》かきれる 夏草香《なつくさか》 繁《しげ》くなりぬる ももしきの大宮処《おおみやどころ》 見ればかなしも。
文麻呂 (厳《おごそ》かに)柿本《かきのもと》ノ朝臣人麻呂《あそんひとまろ》。過[#(ギシ)][#二]近江[#(ノ)]荒都[#(ヲ)][#一]時作[#(レル)]歌。…………
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間――
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綾麻呂 む。………
文麻呂 お父さん。そりゃ、僕だって三史や五経の教訓の立派なことくらいようく分っています。「李太白《りたいはく》」だって僕には涙の出るほど有難い書物です。だけど、あの教義をただ断片的に暗誦《あんしょう》して博識ぶったり、あの唐風《からふう》の詩から小手先の技巧を模倣《もほう》してみたりしたところで何になるでしょう? 要するに僕は、………自覚がなければ問題にならないと思うのです。
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間――
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綾麻呂 文麻呂。……
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