たりは急に曇って薄暗くなってしまった。なよたけの琴の音が、右手の方から聞えはじめる。………

大伴《おおとも》ノ御行《みゆき》、粗末な狩猟《かり》の装束《しょうぞく》で、左手より登場。中年男。荘重《そうちょう》な歩みと、悲痛《ひつう》な表情をとり繕《つくろ》っているが、時として彼のまなざしは狡猾《こうかつ》な輝きを露呈《ろてい》する。………
しばらくは外で躊躇《ちゅうちょ》しているが、思い切ったように土間の敷居《しきい》の所に姿をあらわす。
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御行 こんにちは、……お爺《じい》さん。
造麻呂 (ちょっと会釈《えしゃく》を返して、後は素知らぬ顔で、竹籠を編んでいる………)
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間――
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御行 先日の手紙《ふみ》は、……あのひと……読んで下さいましたか?
造麻呂 (相変らず仕事を続けながら、冷淡に)さあ、どうですか、……まあ、渡すには渡しときましたがね。……何せまだ字もろくに読めないほんの田舎者《いなかもの》の小娘でござりまするで、
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