この機会を利用しなければ、君の恋も、僕の復讐《ふくしゅう》も、一生涯《いっしょうがい》実現出来ないようなことにならないとも限らないんだぜ。さあ! 肚《はら》を落着けて待とう、待とう! 大納言を恋と名声から失脚させるには我々の智慧《ちえ》の外に、最大の勇気と云うものを必要とするんだ。何よりもまず第一に肚だ。肚を落着けて、心静かに待とうじゃないか!……何でえ、しっかりしろよ! (いきなり両手で両膝《りょうひざ》を抱え込む)
清原 (……これも文麻呂の真似《まね》をして、両膝を抱え込む)

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長い、気まずい沈黙。
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文麻呂 (再び沈滞した空気を振払うかのように)ああ、とにかくこれはすごい竹の木だな。……それにしても、この素晴らしく延びた幹はどうだ。……ねえ、清原。こいつは確か孟宗竹《もうそうちく》と云う奴だよ。話によるとこの竹の苗は奈良朝の初期に唐《から》の国から移植されたものらしいんだが、三百年足らずの間にどうだ、この東の国の一劃《いっかく》にも、このように幽麗な叢林《そうりん》を形成してしまった
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