ならない。なよたけが僕を呼んでいる………
文麻呂 (きっぱりと)行きたまえ!
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清原、脱兎《だっと》のごとく、やや左手奥へ駆け下りて行く。
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文麻呂 (清原の後姿を見送りながら、独白)清原。……貴様は、完全に……「恋」の虜《とりこ》だ。………
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燦然《さんぜん》たる星空を背景に丘の中央に、影絵のごとく立っている文麻呂。
わらべ達の謡《うた》う童謡《わざうた》がだんだんと明瞭に聞えて来る。………
〔わらべ達の唄〕
なよ竹やぶに 山鴿《やまばと》は
るら るら
やよ春のとり 春のとり
るろ るろ
なよ竹の葉に るうら
るうら るら
春風にざわめく竹林の音と、わらべ達の謡う愛らしい童謡《わざうた》の旋律《せんりつ》と、時折|淋《さび》しげに鳴く山鴿の鳴声が、微妙に入り交り、織りなされ、不可思議な「夢幻」の諧調となって、舞台はしばらくは奇妙に美しい一幅の「絵図」になってくれればいい。文麻呂は何か吾《われ》を忘れたもののように、じっと遠く竹林の方を見ている。…
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