やがてわらべ達の唄声が次第に遠く消えて行く頃、瓜生《うりゅう》ノ衛門《えもん》、右手より現れる。丘の上の人影をそっと窺《うかが》うようにみている。
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瓜生ノ衛門 (文麻呂だと分ると、低い声で)文麻呂様。……文麻呂様。………
文麻呂 (その声にふと我に返り、あたりを見廻すが、暗くてよく分らない。空耳かな、とも思う)
瓜生ノ衛門 お坊ちゃま。………ここですよ。こちらでございますよ。
文麻呂 誰だ!
瓜生ノ衛門 私でございます! 瓜生ノ衛門でございます。
文麻呂 なんだ、衛門か。……お前だったのか? びっくりさせるじゃないか、こんな処《ところ》に……
瓜生ノ衛門 (笑いながら、近寄って行く)やっと見付けました。ずいぶん方々お探し申したんですよ。……お父上はもう?
文麻呂 (丘の上から下りて来る)む。行ってしまわれた。……元気に発《た》って行かれた。
瓜生ノ衛門 東路《あずまじ》はさぞ淋しゅうござりましょうな。……手前もお供致しとうございました。………でも、供奉《ぐぶ》のものはみな大伴《おおとも》様の御所存だったので、…
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