を窺《うかが》ってみる。彼は黙ったまま、俯向《うつむ》いている。ふと、遠くの竹林の中から、まるでざわめく風の中からでも生れたかのように、わらべ達の合唱する童謡《わざうた》が、美妙な韻律《いんりつ》をひびかせながら、だんだんと聞えて来る。………

 〔わらべ達の唄《うた》〕
なよ竹やぶに 春風は
   さや さや
やよ春の微風《かぜ》 春の微風
   そよ そよ
なよ竹の葉は さあや
   さあや さや
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文麻呂 (怪訝《けげん》な顔で、唄の聞えて来る方向を不気味そうに見やり)……清原。………あれは何だい? 何だろう、あの唄は?
清原 (異様な悦《よろこ》びに既に眼は烱々《けいけい》と輝き始めている。熱情的な独白)わらべ達だ。……なよたけのわらべ達だ。……なよたけがわらべ達と一緒に散歩に出て来たんだ。(突然、駆《か》けて行こうとする)
文麻呂 清原!
清原 (立止る)
文麻呂 何だって云うんだい? わらべ達がどうしたって云うんだい?
清原 (もはや全く気もおろろに、譫言《うわごと》のごとく)わらべ達はなよたけの心の友
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