しく思われて来るのだよ。本当に儂はもう一生あんな馬鹿げた所へは帰りたくなくなった。……この広大無辺の大自然の中に溶け込んでいると、何だかもう、このまま儂はいつ死んでもいいような気がする。今では、あの崇厳な不尽の山を眼《ま》のあたりに眺めながら死ぬと云うことがこの儂の理想なのだよ。儂は、この頃つくづくそう云うことを考えるようになった。……全く人間と云う奴は可笑《おか》しなものさ。……文麻呂! この頃儂はな、都の奴等のことなどをふと思い出すと、腹を抱えて大声で笑い出したくなるのだ。
文麻呂 (静かに)お父さん、……あれはみんな前の世の夢なのですね。僕には何だかそんな気がします。もう自分には何の縁《ゆかり》もなくなった遠い前世の夢が、悔《くい》もなく、ただ遥かな想い出のように蘇《よみがえ》って来るのです。
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間――
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綾麻呂 まあ、……お互いに都のことなぞもういっさい考えぬことにしようではないか。……こんな広々とした自然の懐に抱かれているんだ。お前ももっとのびのびした気持にならなければいけない。歌や物
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