を思い出されたか、急にぽろぽろ涙をこぼされて、……「衛門! お父様の所へ行こう! 一緒に東国へ行こう!……」と、うわごとのようにこうおっしゃって、手前の腕にすがりつくのでございます。手前も、初めは何だか狐につままれたような気持でございましたが、ま、とりあえず、手前の家でしばらく介抱申上げるのがよかろうと、こう、思いまして、早速それから瓜生《うりゅう》の山の家にお連れ申したわけでございます。そのうちに文麻呂様は間もなくお元気になられました。御身体の方はそう云うわけで、すっかりもと通りになられましたのですが、どうしたものでしょう、あの方は以前とは打って変ってあのような無口なこわいお方になってしまわれました。手前どもが何かお伺《うかが》い申しても、さっぱりお答えにならず、一日中部屋の中に引き籠《こも》って何やら物想いに耽《ふけ》ったり、一生懸命書きものをなさったりしていらっしゃる御様子でございました。どうしてああもさっぱりと都の生活に愛想を尽《つ》かしておしまいになったのかは手前などが詮索《せんさく》しても仕方がございませんが、……手前にはどうしても解《げ》せぬことがひとつあるのでございます
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