#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
なよたけの声 (舞台奥より)文麻呂! 文麻呂!……
[#ここから2字下げ]
薄紗《ヴェール》の幕が再び次々に繰《く》り上って行く。場面は、竹林を出たばかりの所で、小高い丘陵《きゅうりょう》の一端の感じ。遠い丘陵が幾つか連なっているのが夜空に遥かに黒く浮んで見える。――
天空には燦然《さんぜん》と、星々がきらめいて、深遠なる宇宙の絵図が果しもなく拡がっている。
中央に、なよたけが前幕と同じ華麗《かれい》な衣裳を身にまとって、冴え渡った星空を背景にして、立っている。片手にはしっかりと竹の小枝を握ったまま、何か差し迫る眼に見えない大きな力に弱々しく抗している様子である。
その顔は「面」のように作られ、奇妙《きみょう》に清らかな「死相」を感じさせる。天空の彼方《かなた》から吹き来たる風が、衣裳の袂《たもと》や、手にした竹の枝葉をかすかに揺らしている。……
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
文麻呂の声 (右手より)なよたけ! なよたけ!……
なよたけ 文麻呂! ここ! あたしはここよ!
[#ここから2字下げ]
文麻
前へ 次へ
全202ページ中158ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
加藤 道夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング