文麻呂殿。……嬉しくはないのですか?……それとも私の云うことを信じないのですか?
文麻呂 ………
御行 (意地悪そうに笑って)……さて、それでは大納言の信用が丸潰《まるつぶ》れになってしまう。早速なよたけの君にお引合せすることに致しましょうかな?……錦丸《にしきまる》! では、早速|竹簾《たけすだれ》の紐《ひも》を引いて下さい。
侍臣《じしん》 かしこまりました。
[#ここから2字下げ]
御所車の竹簾がするすると上った。その向うになよたけが立っている。……燦《きら》めくばかりの美しい衣裳《いしょう》を身にまとった、生れ変ったように美しいなよたけが立っている。……
片手には青々とした竹笹《たけざさ》の枝を持っている。……文麻呂は言葉も出ず、信じられぬかのように美しいなよたけの姿を仰ぐ。
男女の群集、私語でざわめき始める。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
御行 さあ、なよたけ。……あなたの聟君《むこぎみ》のいらっしゃる所に着いたのですぞ。さあ、下りなさい。(彼女の手をとって、車から下ろそうとする。なよたけは空《うつ》けたように云うがままになる。彼女の
前へ 次へ
全202ページ中130ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
加藤 道夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング